2010年度環境社会学会特別研究例会「環境社会学・修士論文発表会」を下記のとおり明治大学駿河台キャンパスにて開催します。
環境社会学にかんする修士論文の成果を発表していただき、じっくり議論ができる場にしたいというのが本研究例会の趣旨です。毎回、ベテラン、中堅、若手に関係なく建設的なコメントが飛び交い、発表者、聴衆の双方にとって新たな発見や解釈がもたらされる充実した集まりになっています。大学院生の皆さんにとって貴重な意見交換や交流の場となるとともに、すべての研究者にとって意義深い討論の場となることと思われます。どうぞ奮ってご参加ください。
日時: 2010年3月19日(土)13:00-17:00
場所:明治大学駿河台キャンパス リバティタワー1105教室
(詳しくは、http://www.meiji.ac.jp/koho/campus_guide/suruga/access.html をご参照ください)
主催=環境社会学会
企画担当=足立重和(愛知教育大学)+宮内泰介(北海道大学)+寺田良一(明治大学)
<プログラム>
■開会の挨拶・事務連絡(13:00-13:05)
■第Ⅰ部(13:05-14:15)司会=堀田恭子(立正大学)
▼第1報告(13:05-13:40)
開沼博(東京大学大学院)
戦後成長のエネルギー―原子力ムラの歴史社会学―
○要旨:
本報告は、原子力発電所及び関連施設を抱える地域=原子力ムラを対象とし、今日の地方に見られる「自動的かつ自発的な服従」と呼べる現象の歴史的形成過程の分析をポストコロニアルスタディーズ等の理論的蓄積を踏まえながら進めるものだ。
現在、地方は過疎化・高齢化、財政の逼迫など大きな問題を抱えている。しかし、そのような問題を抱える少なからぬ地方は、何らかの抵抗や改革を進める姿勢を明確にすることなく、むしろ国や中央が定めた方針に従い続けているように見ることができる。本稿が対象とする原子力ムラの分析から見えてくるのは、その住民が原子力という、ともすれば強いスティグマともなりかねない存在を拒絶するどころか、addictionalに受け入れている姿だ。そこには自動的かつ自発的な服従がある。
その服従のあり方を、原子力ムラの前史(戦前・戦時~戦前のプレ成長期)、原子力ムラの成立(成長期)、原子力ムラの現在(90年代半ば以降のポスト成長期)と歴史的に区分して分析した上で、先行研究が提示してきた視座を踏まえて理論的考察を試みる。
(キーワード:原子力発電 自動的かつ自発的な服従 成長期・ポスト成長期 addiction 「受苦」の変容)
▼第2報告(13:40-14:15)
岩崎健幸(東京大学大学院)
ジェノサイドを喚起する国家と捉われない人びと
――ルワンダ「一家にウシ一頭」政策における受益者の選定に着目して―
○要旨:
1994年に50万人以上の犠牲者を出したジェノサイドを経験したルワンダの農村地域には、現在、虐殺の「被害者側」と「加害者側」が混住している。本研究では、貧困削減を目的として2006年より貧困農家に雌ウシを供与している「一家にウシ一頭」政策に着目し、その「受益者」にどのような人が選ばれてきたのかを把握することにより、ジェノサイド後のルワンダを生きる人びとの実態に迫る。現地調査の結果、国家公務員が選んだ受益者には虐殺犯罪者は選ばれていなかったのに対し、地域住民が選んだ受益者には虐殺犯罪者も選ばれていた。また、国家により虐殺犯罪者はウシを受け取るべきではないとされてウシが没収された際には、住民からウシが貸与されていた。虐殺犯罪者を除外するなどジェノサイドの記憶を喚起する国家において、人びとはそれに捉われずに生きていることが明らかになった。近年、平和構築は国際的な課題となっている。ジェノサイドという壮絶な経験をした人びとが灯した共生の光を消さぬよう、今後もルワンダの動向を注視していく必要がある。
(キーワード:ジェノサイド、被害者と加害者、国家と地域社会)
▽休憩(14:15-14:25)
■第Ⅱ部(14:25-15:35)司会=現在調整中
▼第3報告(14:25-15:00)
李かりん(東京大学大学院)
ため池の保全における多義的枠組みについて
―兵庫県加古川市西神吉町富木地区のため池を事例に―
○要旨:
ため池は農業用水の供給が第一目的で築造され、水利慣行のもとで管理されてきた。しかし、農村の高齢化などによってため池管理の粗放化や管理放棄などが問題になっている。
また近年ため池において、農業生産だけでなく、防災や、生物多様性保全、文化の伝承などの多面的機能が注目されている。これらの議論は多面的機能をため池という施設自体が有すものとして考えてきたが、実は多面的機能を増進させるにはそれを支える社会システムが必要とする。さらにため池の各機能の間で、またそれを見出したい各アクターの間でトレードオフの関係になったり、衝突することもある。
そこで、本研究は従来の水利慣行によるため池管理が困難になる一方で、ため池において多様な機能、価値を求められる新しい状況の中で、ため池保全のあり方を「多義的枠組み」として提示し、事例から検証することを目的とする。
(キーワード:ため池、生物多様性保全、二次的自然、多義的枠組み)
▼第4報告(15:00-15:35)
中川恵(東北大学大学院)
地域支援型農業と持続可能な地域づくり―地域が支える「鳴子の米プロジェクト」から―
要旨:
日本の有機農業運動に淵源をもつCommunity Supported Agriculture(以下、CSAと略記)は2000年以降「地域支援型農業」と訳され、国際的にも国内的にも注目される実践である。宮城県大崎市鳴子温泉のNPO法人鳴子の米プロジェクト(以下、米プロジェクトと略記)は日本におけるCSAの代表的取り組みであると同時に、安心・安全に配慮しながら中山間地域の農業振興を図り、温泉観光地の活性化にも寄与する取り組みとして評価されてきた。
本報告は米プロジェクトの活動分析を通じ、以下2点の特徴を明らかにした。第一に、米に特化した活動であること。主食である米であるからこそ、地域内の様々な利害を超えて活動の展開が可能であった。同時に、品目が限定され、販売価格設定の理由や参加によるメリットの可視性が高いことが生産者と消費者双方の納得につながりやすい。従来のこの地域の米作りに対する評価は高くなかったが、中山間地向けの新品種をシンボルとすることで、これまでの評価を覆すことが可能になった。第二に、団体名に冠するように鳴子温泉地域というローカル指向性を強調すること。米プロジェクトの場合、2006年に広域合併をした以降も旧行政区を強調している。範囲の限定によって活動規模の劇的拡大は望めないが、そのかわりに参加者と非参加者、生産者と消費者、活動によって生まれた流通経路と既存の経路といった立場や利害関係の相違を協調的に調整することが可能である。
(キーワード:地域支援型農業(CSA)、中山間地域、地域づくり、地元学)
▽休憩(15:35-15:45)
■第Ⅲ部(15:45-16:55)司会=松村正治(恵泉女学園大学)
▼第5報告(15:45-16:20)
塩原大介(東京大学大学院)
里山ボランティアを支える仕事―川崎-仙台薪ストーブの会を事例に―
要旨:
これまでの森林/里山ボランティアは、環境問題解決への有効性によって活動が注目されがちであったが、これを「生態学的ポリティクス」として批判的に捉え、実際の活動への参加者は自己充足的な動機に基づいた自発性を有しているという議論がなされている。しかし、そのような議論においてトレードオフのように捉えられてきた「生態学的ポリティクス」と「自己充足的な動機」は必ずしも対立的な関係ではなく、むしろ共存することで環境ボランティアのような市民活動は深みを持って発展・展開していく可能性を秘めている。
そこで本研究は、宮城県の川崎町で活動している川崎-仙台薪ストーブの会を対象に、そのような対立的な図式を解体することで、従来の環境ボランティア論の枠組みによっては捉えられきれないような市民活動の側面を含む、人間の統合的な営みとしてボランティアを捉え直すことを提起した。
(キーワード:里山ボランティア 市民活動 遊び仕事 地域通貨 統合的営み)
▼第6報告(16:20-16:55)
井上美穂(北海道大学大学院)
北海道札幌市における環境教育活動の取り組みと課題
要旨:
環境教育の重要性が謳われる中、北海道札幌市でも多方面から環境教育の取り組みが行われてきた。その中には、市が政策として提案したものだけではなく、NPO団体や学校教育の現場で働く教員、施設を利用する市民などがそれぞれの目的をもとに活動している取り組みもある。本研究では、このような市民の自発的な取り組みを中心に事例を挙げ、複数の立場の人々が連携を図りながら札幌市内にて行う活動の内容を取り上げ、その効果を分析していく。
また、研究の中で、筆者はいくつかの参与観察を行った。あるNPOの運営する自然体験教室にて、スタッフとして参加した。また、文部科学省が試験実施する「図書館とフィールドをつなぐ環境教育プロジェクト」のプロジェクトメンバーとして、いくつかのワークショップを実践した。これらの参与観察で考察した事象などを踏まえながら、より市民に近い目線から、環境教育をより親しみやすく、より幅広く展開していけるものにするための手法や課題を考察する。
(キーワード:環境教育 自然体験 市民参加 体験学習)
■講評・閉会の挨拶(16:55-17:00)