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博士・修士論文発表会

修士論文発表会(特別研究例会)のお知らせ

By 2006年4月7日12月 24th, 2021No Comments

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●日時: 2006年4月23日(日)10:00-17:00
●場所: 龍谷大学大宮学舎・清和館3階ホール(JR京都駅から徒歩10分)
 http://www.ryukoku.ac.jp/web/map/omiya.html
●主催=環境社会学会
●企画担当=脇田健一[龍谷大学]+秋津元輝[京都大学]+帯谷博明[奈良女子大学・研究活動委員]
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<研究例会の趣旨>
 修士論文発表会も今年で5回目を迎えました。環境社会学にかかわる修士論文の成果を発表していただき、じっくり議論ができる場にしたいというのが本研究例会の趣旨です。毎回刺激的なコメントが飛び交い、発表者、聴衆の双方にとって新たな発見や解釈がもたらされる充実した集まりになっています。
 今回もこれまでと同様に、さまざまな大学院で同分野の研究している院生の学的出会いの場、さらに博士課程進学後の研究テーマを展望する上で貴重な意見交換の場にできればと考えています。また、それ以外の院生の皆さんにとってもご自身の論文執筆の参考になることと思いますので、奮ってご参加ください。事前の参加申込みは不要です。
<プログラム>
■開会の挨拶・事務連絡(10:00~10:10)
■第Ⅰ部(10:10~12:10) 司会=秋津元輝[京都大学]
○第1報告(10:10~10:50)
樋口幸永(滋賀県立大学大学院)
『婦人之友』誌における「家庭生活の合理化」という送り手の戦略の100年
要旨:
 婦人雑誌『婦人之友』は1903年創刊、現在も発行されている日本最古の婦人雑誌である。その読者組織『全国友の会』(以下、『友の会』)は1930年設立、70年以上の歴史ある女性組織で、近年は環境配慮活動に熱心に取り組んでいる。
 本論文では、『婦人之友』および『友の会』の長期継続の理由を、創立者・羽仁もと子が唱えた「家庭生活の合理化」という戦略から読み解き、そこから女性と地域の繋がりについて考察する。その方法として、誌面分析、ヒヤリング、関係文献の調査を行った。
 会員(=主に都会に住む専業主婦)は、当初、自分の住む地域の非合理さと対峙することを好まず、誌上に統一的で合理的な理想像を描き、実践し、それを慈悲的寄付行為として還元していた。これに賛同した読者は『友の会』会員となり、『友の会』は順調にその会員数を伸ばす。だが『友の会』のために費やす時間は次第に増し、「合理化」を極めるはずの組織は、非合理な様相さえ呈しつつある。そして現在、ローカリティは喪失、さらに家事が外部化されることにより、「家庭生活の合理化」が必ずしも社会を合理的に導かなくなってしまっている。
(キーワード:婦人之友、家庭生活の合理化、女性組織、地域性、情報環境)
○第2報告(10:50~11:30)
武中桂(北海道大学大学院)
野幌の生活環境史――「ヤマ」を受け継ぐ
要旨:
 本稿は、札幌市近郊の大規模森林を事例に、行政によって管理されている自然環境を、かねてからその周辺に暮らす人びとがどのように捉え、今日に至るまでどのようにかかわってきたか、について考察したものである。
 野幌国有林は、1968年に「北海道開基百年」を記念して、道立自然公園に指定されて以来、自宅から近距離に位置する自然環境「野幌森林公園」として周知されている。だが、公園指定の直前まで、そこは「ヤマ」と呼ばれ、周辺部落に暮らす人びとの生活の糧であった。ただし、時代の変化に伴い、生活の糧としての国有林の役割は次第に薄れてきた。
 しかし、本稿で対象とした野幌部落の人びとは、国有林との関係の希薄化を事実として認めつつも、その決定的な理由を国有林の「公園化」に求める。そして、「公園」である国有林の現実を理解した上で、今なお、①そこを「ヤマ」と呼び、②「ヤマ」に働きかけ、③公園に対して、「自分たちのヤマ」という領有意識を持ち続けている。したがって、一般的に「野幌森林公園」として知られている一方で、「ヤマ」という認識も伴っていることから、野幌国有林は、「重層的な環境意識を備えた空間」であると言い換えることができる。
(キーワード:野幌国有林、野幌森林公園、「ヤマ」、「開拓」、受け継ぐ)
○第3報告(11:30~12:10)
亀井由紀子(東京大学大学院/奈良女子大学大学院)
歴史的町並みの保全意義――今井町・御所町におけるケーススタディ
要旨:
 歴史的町並みの保全について、現在では保全そのものは自明の理とされ、意義よりも具体的な保全手法の議論が優位に置かれている。特に住民間の保全意義については、「愛郷運動」の一言で済まされてしまう傾向にあり、注目されていない。しかし、筆者の3年に渡る歴史的町並みでの居住体験を通して、町の人々の中に、そうした外部評価とは異なる保全意義を確認した。そこで、個人はどのように保全意義を見出しており、個人の保全意義は地区としての保全意義に対し、どのように位置付けられるのか。保全の取り組み環境に違いのある奈良県今井町と御所町に注目し、聞き取り調査を中心として、個人や地区の保全史との関わりから、個人および地区の保全意義を追った。その結果、個人の保全意義が自己実現と深く関係していることや、客観的視野の獲得が町に対する肯定的評価を生み出すことなど、今後の町並み保全を考える上で重要となるいくつかの指標が得られた。
(キーワード:町並み保全、意義、理論)
(休憩)
■第Ⅱ部(13:10~15:10) 司会=脇田健一[龍谷大学]
○第4報告(13:10~13:50)
北島義和(京都大学大学院)
井戸水をめぐる環境史――滋賀県高島市勝野地区の事例から
要旨:
 本報告では、これまであまり取り上げられてこなかった井戸水という水環境の管理・利用についての環境史の記述をおこなう。具体的には、近世水道形式の共同井戸の利用を現在も続けている滋賀県湖西の一地区を取り上げ、この井戸水をめぐる昭和初期以降の地区住民の歴史的経験を述べながら、そのような井戸水利用が地域生活において持ってきた意味について検討する。この意味は、おおまかには実利的な意味・精神的な意味・社会的な意味に分類することができるが、これらの意味は地域においては重層的に立ち現れ、住民の井戸水利用の継続を支えてきた。しかし同時にこの一方で、住民たちはこの井戸水利用に押し寄せてくる様々な近代システムからの介入を受け入れてもきた。このような地区住民の井戸水管理・利用は、近代システムと対抗する自給的な環境実践というよりも、近代システムに寄生しながら継続される補完的な環境実践であると言える。
(キーワード:井戸水、環境史、近代システムと生活世界)
○第5報告(13:50~14:30)
宮本結佳(奈良女子大学大学院/同志社大学大学院)
滋賀県志賀町における住民運動の展開動向についての比較分析――ゴルフ場農薬散布問題および廃棄物焼却処理施設建設問題を事例として
要旨:
 本研究で事例とするのは、滋賀県志賀町(現大津市)において1980年代後半に発生したゴルフ場農薬散布問題及び2000年代に発生した大型廃棄物焼却処理施設建設問題に関する運動である。双方の事例で活発に運動が行われ、運動が一定の成果を収めてきたにもかかわらず、それぞれの運動の無農薬化、建設計画阻止という目標は達成されていない。特に大型廃棄物焼却処理施設建設問題に関する運動においては建設の是非を争点とした四回の選挙(町議選・県議選・町長リコール・町長選)においていずれも反対運動側が勝利を収めたにも関わらず、リコール後の選挙で選ばれた反対派町長の突然の辞任後、運動の展開が困難となり建設計画が進展している。これらの事実から、なぜ運動が一定の成果を収めたにも関わらず目標達成が困難であったのか、についてマックアダムが社会運動分析の主要な要素として提唱する「政治的機会構造」「動員構造」「フレーミング」の枠組みを用いて分析することで運動が内包する運動の展開の困難性について考察する。
(キーワード:住民運動、政治的機会構造、動員構造、フレーミング) 
○第6報告(14:30~15:10)
安田章人(京都大学大学院) 
現代アフリカにおける住民参加型自然保護政策に対する一考察――カメルーン共和国・北部州におけるスポーツハンティングを事例に
要旨:
 本研究では、カメルーン・ベヌエ国立公園にて、自然保護政策におけるスポーツハンティングの位置付けと、住民生活との関係を分析した。公園周辺に設定された「狩猟区」は、政府から欧米の観光事業者に賃借され、そこではスポーツハンティングが公園管理を支える観光事業の柱として行われていた。また、事業者や政府と「狩猟区」内の住民との間には労働力と現金収入源という相利関係が存在したが、住民による狩猟活動等は違法行為として取り締まられ、緊張関係も生み出されていた。
 アフリカにおける自然保護政策のモデルは、1980年代に原生自然保護から住民参加型保全へと移行し、スポーツハンティングを動機とした植民地主義的手法からの脱却と、住民参加を謳ったボトムアップ型アプローチへの転換が期待された。ところが、調査地における自然保護政策には、この2点の変化は認められず、かつての植民地主義的手法が色濃く残っていることが明らかになった。
(キーワード:スポーツハンティング、自然保護計画、狩猟規制、住民参加型保全)
(休憩)
■第Ⅲ部(15:30~16:50) 司会=帯谷博明[奈良女子大学]
○第7報告(15:30~16:10)
木口由香(京都大学大学院)
東北タイ、ムン川下流域におけるパクムンダム建設の影響――漁業を中心とした生業の変遷
要旨:
 タイ東北部を流れるメコン河支流のムン川に1994年に建設されたパクムン水力発電ダムは、漁業資源の減少といった変化を地域にもたらした。同ダムのあるウボンラチャタニ県では、漁業補償やダム水門解放を求める運動が現在まで続いており、タイ政府は2003年に影響緩和策としてダム水門を年間4ヶ月間開放させている。
 本研究は、住民の河川環境に関する知見、漁具利用および漁場の変化に着目し、ダム建設が住民の漁業に与えた影響を明らかにすることを目的とした。
 住民が河川の地形に名称を付していること、およびルアンという漁場の設定が再確認され、更に回遊魚を主な漁獲物とする漁具のルアンがダム建設後放棄され、水門開放によって一部復活していることが新たに分かった。現在村人が所有している漁具は使用状況から、(1)建設後使用中断、水門開放で再開、(2)使用継続、漁獲が変化、(3)建設後に使用開始、と区分できた。また、住民はダム建設前に漁業を主生業としていたが、建設後は漁業依存度が低下している傾向が窺えた。
(キーワード:ダム開発、漁業、漁具、タイ、ムン川)
○第8報告(16:10~16:50)
齋藤さやか(法政大学大学院)
地域政策の政策形成過程と新聞メディア――エネルギー施設建設問題と青森県・新潟県の県紙報道分析
要旨:
 本研究の目的は「政策形成へ世論を反映させるために重要な役割を果たす」といわれるマス・メディアを対象に、「いかなる情報提供が、政策上の問題解決に役立つか」について検討するところにある。
 具体的には、「国策」(エネルギー施設建設政策)を地域が担う際、「地方紙」はいかに問題を取上げたか。多元的な意見が交錯する中、どのように地域に共鳴するフレームを提示したか。それを、事例研究をもとに追及していくところにある。
 分析枠組みは、メディアの内容分析、フレーム分析、ステートメント分析、イシュー・トゥリー・アナリシスである。事例とする地域は、政策に関し正反対とも考えられる帰結をよんだ「青森県六ヶ所村」と「新潟県巻町」である。二つの地域のフレームの違いから、理想的な「市民の視点に立ったメディア」について述べている。小さな市民団体の行動もフレーミングし、批判と肯定両方のステートメントを提示する必要性を強調している。
(キーワード:メディア、内容分析、フレーム)
■総括と閉会の挨拶(16:50~17:00)
注:報告者の所属が併記されている場合は、4月現在の所属/修士課程時の所属を表します。