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博士・修士論文発表会

修士論文発表会(特別研究例会)のお知らせ

By 2008年2月12日12月 24th, 2021No Comments

 2007年度環境社会学会特別研究例会「環境社会学・修士論文発表会」を下記のとおりキャンパスプラザ京都で開催します。
 環境社会学にかかわる修士論文の成果を発表していただき、じっくり議論ができる場にしたいというのが本研究例会の趣旨です。毎回刺激的なコメントが飛び交い、発表者、聴衆の双方にとって新たな発見や解釈がもたらされる充実した集まりになっています。大学院生の皆さんにとって貴重な意見交換や交流の場となるとともに、すべての研究者にとって意義深い討論の場となることと思われます。どうぞ奮ってご参加ください。
※すでに<確定版>としてプログラムを発表しましたが,発表順とスケジュールに変更が生じました。下記の通りとなります。どうぞよろしくお願い申し上げます。
・日 時:2008年3月8日(土)10:30~16:30
・場 所:キャンパスプラザ京都(JR京都駅ビル駐車場西側)4階第4講義室
※会場へのアクセス方法
http://www.consortium.or.jp/campusplaza/guidance.html
・主催:環境社会学会
・企画担当:箕浦一哉(山梨県立大学)+秋津元輝(京都大学)
<プログラム【最終確定版080303】>
■開会の挨拶・事務連絡(10:30~10:35)
■第1部(10:35~11:45) 司会=荒川康(兵庫県立大学)
【第1報告】(10:35~11:10)
小障子正喜(滋賀大学大学院)
日本のディープ・エコロジー――前田俊彦の環境思想――
○要旨:本論文は、ノルウェーの哲学者であるアルネ・ネスが提唱するディープ・エコロジーという環境思想の下に、日本の市民運動家であり思想家である前田俊彦の思想を読み解く試みである。
 ディープ・エコロジーは、環境問題の解決のために、人々の価値観や世界観を転換する必要性を訴えるラディカルな思想である。一方、前田は環境問題の発生原因を資本主義経済下の商品としてのモノの生産のあり方に見出している。彼は「つくる」という行為を見直し、新たな生産のあり方を提言する。
 ディープ・エコロジーは、日本において広く浸透している思想とは言い難い。日本における環境問題の解決方策は、行政や企業の努力によって政策的あるいは技術的な対応をはかることや資源の再利用またはごみの減量などに重点があり、人間の内面や行為を見直すという思想的視点はけっして強いとは言えない。
 本論文では、前田俊彦の思想を再考することで、思想の観点から環境問題を捉える重要性を提起したい。
(キーワード:ディープ・エコロジー、つくる、価値観の転換)
【第2報告】(11:10~11:45)
佐藤悠(法政大学大学院)
人的資本が生み出す里山の公益――図師小野路歴史環境保全地域における伝統的技法を用いた里山保全活動の実践から――
○要旨:本稿の目的は,二次的自然である里山の保全活動に焦点を当て,人間がより良い環境を「作り出す」には,環境にかかわる人間に何が必要とされるのかを明らかにする点にある。そのための事例分析を,東京都町田市にある図師小野路歴史環境保全地域における里山保全活動を対象に行った。
 その結果として,まず里山保全活動とは,人が常に自然にはたらきかけることで,その特有の自然環境を不断に作り出し続ける創造的営みであり,そうした自然環境を作り出し続けるには,保全活動の担い手が技能という人的資本を保有していること,その人的資本が土地に定着していることが重要であることを明らかにした。
 そして,この保全地域では,人的資本の定着を可能とするために,行政が里山特有の生物多様性の豊かさを公益と捉え,保全活動の担い手たちを公益の生産者として位置づけてその制度的基盤を整えたことが,この保全地域における里山保全の成功の要因にあることを明らかにした。
(キーワード:里山、人的資本、定着、生物多様性の豊かさ、公益の生産)
◇休憩(11:45~12:40)
■第2部(12:40~14:25) 司会=足立重和(愛知教育大学)
【第3報告】(12:40~13:15)
米良重人(山梨大学大学院)
地域福祉における市民の参加と連帯――NPO法人MOMOを事例に――
○要旨:本研究の目的は、地域福祉において神奈川県厚木市を中心に活動しているNPO法人「MOMO」の実態調査と、市民の参加と連帯による市民自治の可能性を明らかにすることである。MOMOは主に、高齢者の生活支援付き入居施設などの高齢者支援の事業を行う市民事業体である。活動のメンバーは、1982年の「生活クラブ生協」による生協運動から「神奈川ネットワーク運動」による代理人運動、「ワーカーズ・コレクティブ」などの市民事業へと市民自治の運動を継続してきている。MOMOはこのような市民自治の運動の流れの中、設立された。活動理念や労働形態において「自己決定・自己責任」、「公共的利益の実現」など見られ、市民自治的要素を持っている。このMOMOが地域の課題に対して、市民によって資金を出し合って(市民資本)サービスを生みだしたり、代理人を使って政策提言をしたりするなど地域福祉の充実に寄与している。またこのような福祉の実践によって、地域内外に連帯というのもが広がっている。そしてこのような重層的連帯によって市民自治領域も広がっている。
(キーワード:市民、参加、連帯、自治、地域福祉、公共生)
【第4報告】(13:15~13:50)
矢澤和河(北海道大学大学院)
森林NPOがとった砂利採取事業への無回答の意味――北海道白老町における森林NPO の活動から――
○要旨:本研究は北海道白老町において活動する森林NPOを対象とする。この団体は、不在地主化した周辺の土地の森林管理や河川沿いのフットパス(自然歩道)整備等の活動を展開し、地域社会の中での認知を得てきた。このプロセスは、一見、地域社会の中で環境とかかわるレジティマシー(正統性/正当性)獲得のプロセスのように思われる。しかし、この団体の近隣で計画された砂利採取事業において、事業者側から砂利採取への理解を求められたことをきっかけに、その対応をめぐり団体内での議論が生じた。そして、団体では「自然環境の保全」と「地域のアクターとの関係の保持」という二つの方針をめぐって議論が重ねられた。その結果、団体では最終的に「回答できないことが結論」という回答が出された。
 この回答からは二つの点が指摘できる。一点目は、団体があえて保留という回答をすることで分裂を回避し、活動の継続性を確保したこと。二点目としては、レジティマシー獲得のプロセスを見る上では、活動主体が葛藤する中で、どのような戦略を選択するかに注目する必要性があげられる。
(キーワード:環境保全活動、レジティマシー、認知と承認)
【第5報告】(13:50~14:25)
宇田和子(法政大学大学院)
カネミ油症事件における行政組織の問題放置のメカニズム
○要旨:本稿は、カネミ油症事件の発生と複雑化の因果関係を解明し、そこから政策的教訓をくみとろうとする試みである。方法として、歴史の再構築のために現地での聞き取り調査や裁判資料の読み込みといった質的調査を行い、分析のために被害構造論の視点や組織の戦略分析の視点を用いた。事実経過を追うと、行政組織による放置が被害を社会的に増幅させていることや、被害者が幾層にも分岐しており、潜在的被害者が多数存在することがわかった。旧厚生省と旧農林省は、問題変容に伴う政策転換を行わず、社会的文脈を硬直化させていた。その結果、個々の対処はあっても中身は空洞化しており、総体としては「放置」が行われた。その背後にあるのは、「役割の放棄」や「判断基準の転嫁」といった官僚制の逆機能である。その克服のために、予兆的事例が発生した際の「周辺リスクへの対処原則」と、ある事業を遂行したり問題に対処したりする際の「見届け原則」を、今後必要とされる政策理念として提言する。
(キーワード:官僚制、放置、社会的文脈の硬直化、役割の放棄、判断基準の転嫁)
◇休憩(14:25~14:35)
■第3部(14:35~16:20) 司会=帯谷博明(奈良女子大学)
【第6報告】(14:35~15:10)
佐久間香子(北海道大学大学院)
ボルネオ島中央部における森と人の社会空間――自然資源をめぐるブラワンとプナンの関係誌――
○要旨:本論文では,東マレーシア・サラワク州北部のバラム河上流域に位置するグヌン・ムル国立公園(世界自然遺産)と,その周辺のブラワン(Berawan)とプナン(Penan)の居住地(定住地)を含めた地域を「社会空間」として捉えて研究の対象とする。その空間というのは,国立公園の設置を契機にしたブラワンの移住とプナンの定住によってできた社会的構築物である。論文の主たる目的は,これまであまり省みられることのなかったブラワンという小規模集団に焦点を当て,彼(女)らの社会空間論的モノグラフを記述することにある。生活に利用していた森林の国立公園化と観光開発というモダニティの状況下において,ブラワン社会を取り囲むムルの自然環境とプナンとの関係性およびその変化を人びとの生活の場から,フィールドワークと文献資料をもとに明らかにする。加えて,プナンをこの地域の「真正な住人」とする一方で,ブラワンをその「侵略者」たらしめてきた,他者表象の内包する暴力性も考察の対象とする。
(キーワード:社会空間,国立公園,ブラワン,プナン,モダニティ)
【第7報告】(15:10~15:45)
森明香(一橋大学大学院)
ダム計画をめぐる生活史――積み重ねられた時間を聴く――
○要旨:本研究は、完成予定の目途が立たないダム計画下での水没予定地住民の生活を掘り起こすことを目的としている。完成予定の目途が立たないダム計画とは、文字通り完成する目途が立っていないダム計画のことを指し、計画に関する広範な合意形成が取れていない現実の帰結として存在するものである。完成予定の目途が立たないダム計画の下での生活とは、「いつか水没する日が来る」ことを頭に描くことを余儀なくされ、さらに人びとが将来設計を立てることを阻む作用を持つ。
 これまで開発問題に関する研究は、数多く取り組まれてきた。しかし、開発が発表されてから数十年を経て今なおその先行きが不透明な開発の持つ問題性について言及した研究は、ようやく途についたばかりである。
 本研究は、そうしたダム計画の一つである川辺川ダム計画を取り上げ、水没予定地住民の生活史を辿りながら、完成予定の目途が立たない大規模開発下での生活の実態を描き出すことを試みる。その結果、先行きのわからない計画下でも主体的に行動する水没予定地住民と、他方で完成予定の目途が立たないダム計画がもたらす弊害を描き出すこととなった。
(キーワード:大規模開発、完成予定の目途が立たない、水没予定、生活史)
【第8報告】(15:45~16:20)
平井勇介(早稲田大学大学院)
生活実践からみた自然再生事業の環境社会学的考察
○要旨:本論文は、近年盛んにおこなわれてきている自然再生事業を生活者の立場から考察するものである。本論の全体を貫く問題関心は、自然再生事業における「生態学的価値の優位性」と「平等主義的な傾向」という特徴を生活者の視点から批判的に検討することを通じ、自然再生事業に新たな視座を提示することである。
 「生態学的価値の優位性」とは、「地域の固有性を尊重する」と謳う自然再生事業であっても、「生物多様性の確保」(生態学的価値)を第一とした強固な価値付けが事業を規定しているという特徴である。一方、「平等主義的な傾向」とは、自然再生事業への参加主体には徹底的な公正性を確保しようとする特徴である。この特徴は、自然再生事業への積極的な参加意向を示す主体を広く受け入れようとする志向性と親和的である。こうしたふたつの特徴に対して、現在自然再生事業がおこなわれている、ふたつの事例調査で得られた知見から検討を加えている。
(キーワード:自然再生事業、生態学的価値の優位性、平等主義、空間管理、意思決定)
■講評,閉会あいさつ(16:20~16:30)
■終了後,懇親会を予定しています。
企画担当:箕浦一哉(山梨県立大学)+秋津元輝(京都大学)(以上)

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