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第3回環境社会学会奨励賞が以下の通り授与されました。第4回環境社会学会奨励賞にも積極的なご推薦をお願い申し上げます。以下は選考理由と受賞者の言葉です。

「著書の部」受賞作品

椙本歩美著『森を守るのは誰か―フィリピンの参加型森林政策と地域社会』新泉社、 2018年刊行

選考理由

選考委員会は、推薦委員・会員から推薦された作品のうち、受賞資格・選考対象の条件を満たす著書5点それぞれを詳細に検討し、厳正な選考の結果、全員一致で本作品を第3回環境社会学会奨励賞「著書の部」の受賞作品に選出した。

本書は、フィリピン・ルソン島の一村落でのフィールドワークを元に、フィリピンに導入された住民参加型森林政策と村落レベルでの対応に焦点を当て、「参加型森林政策」という政策が、現場森林官と住民とによって、どのように現場独自のルールや仕組みを生みだしているかを詳細に描き出している。特に政策実施のための利害調整のなかで国家・援助機関・住民のあいだで双方向的なやりとりが行われていることに着目し、国家の形式知と住民や森林官の経験知が複雑に混ざり合うなかで、現場独自のルールが生み出されていることを明らかにした。そして、意図せざる政策実施を現場での新たな制度化と捉え直し、その可能性を論じた。

長年の丹念なフィールドワークに基づいた「分厚い記述」によって、この地域の魅力的なエスノグラフィになっている。また、森林に関する自然資源政策に関する研究において新たな論点と分析枠組みを提示するだけではなく、社会学的な政策研究として示唆に富む。さらに本書では、本文以外にもコラムを設置するなど、専門書でありながらも読みやすい工夫もされており、全体として書籍の完成度が高いと評価された。

第3回(2020年)環境社会学会奨励賞選考委員会委員長 寺田良一

受賞のことば

この度は、奨励賞(著書の部)に選定いただきまして、大変光栄に思っております。これまでご指導ご支援くださった皆様、フィリピンで調査を受け入れてくださりご教授くださった皆様に、心より感謝を申し上げます。

拙著は、フィリピンの一農山村を事例に、住民参加型森林管理政策の実施要因を分析したものです。とくに、国家・援助機関・住民のあいだの利害調整に着目し、その中で形式知と暗黙知が混ざり合いながら、現場独自のルールが生み出される過程を明らかにしました。このような意図せざる政策実施を現場の制度化と捉え直し、分析するための枠組みを提示しようとしたものです。

これらがどのくらい、社会の一助となれるのか分かりませんが、本賞を励みに、そしていつかは次世代を励ます役目を担えるよう、より一層努力して参ります。今後ともご指導賜りますようお願い申し上げます。

椙本歩美(国際教養大学)

「論文の部」受賞作品

寺内大左「焼畑先住民社会における資源利用制度の正当性をめぐる競合――インドネシア東カリマンタン州・ベシ村の事例」『環境社会学研究』22号、2017年刊行

選考理由

選考委員会は、推薦委員・会員から推薦された作品のうち、受賞資格・選考対象の条件を満たす論文5点それぞれを詳細に検討し上位2点を選び出し、厳正な選考の結果、全員一致で本作品を、他の一点とともに、第3回環境社会学会奨励賞「論文の部」の受賞作品に選出した。

本論文は、インドネシアにおける住民参加型の資源管理政策において、重要アクターである先住民社会の内部では慣習的な資源利用制度の混乱が生じている状況を踏まえて、合議よって集団内で維持・変更される資源利用制度ではなく、日常の資源利用の習慣や暗黙の了解といった極めて捉えにくい制度を対象に、1)先住民社会における資源利用制度の正当性の成立要件、2)開発や政変の中で生じた正当性の競合、3)合議なく社会に普及する制度変化のメカニズムを、長期のフィールド調査に基づき明らかにしている。

長期のフィールドワークに基づいて分厚いデータを十分に生かしながら、資源共同管理の議論にも確実な一石を投じる論文である。本文中の図表は、大量の分厚いデータを集約的かつコンパクトに整理、提示がなされ、模範的なものになっている。

理論的には、資源管理をめぐる正当性(レジティマシー)のダイナミズムとそのメカニズムという、求められているけれども決定的な研究が少ないものについて、確実なデータのもと詳細かつ堅実な議論がなされている。土地保有に関するリアリティを踏まえており、その内容は複雑で初見者には難解であるものの、論理的であり、かつ先住民社会の課題を抽出し、住民参加型の資源管理に対する政策的なインプリケーションまで示している。理論、実証、政策提言がワンセットになった優れた研究として評価される。

第3回(2020年)環境社会学会奨励賞選考委員会委員長 寺田良一

受賞のことば

この度は拙論を環境社会学会奨励賞(論文の部)に選んでいただき、大変光栄に思います。ご指導くださった方々、査読者の方々、編集委員の方々、選考に携わってくださった方々に感謝申し上げます。本論文は、インドネシアの焼畑民の資源利用の制度(習慣や暗黙の了解)が、民主化・地方分権化といった政治変化や企業の開発の影響の中で、どのように変化しているのかを明らかにしたものです。現場の多様で複雑な動きを、限られた紙幅の中でどう表現するか、大変悩み、苦労しました。環境社会学の正当性の概念を援用し、ある程度現場の実態を表現することができたと思うのですが、この事例を踏まえてコモンズのレジティマシー(正当性/正統性)に関する議論に対して理論的に十分貢献できているとは思っていません。今後は事例研究を通して環境社会学の理論にも貢献できるようにしていきたいと思っています。引き続きご指導・ご鞭撻のほどどうぞよろしくお願いいたします。

寺内大左(東洋大学)

「論文の部」受賞作品

佐藤圭一「日本の気候変動対策におけるプライベート・ガバナンス―経団連「自主行動計画」の作動メカニズム」『環境社会学研究』23号、2017年刊行

選考理由

選考委員会は、推薦委員・会員から推薦された作品のうち、受賞資格・選考対象の条件を満たす論文5点それぞれを詳細に検討し上位2点を選び出し、厳正な選考の結果、全員一致で本作品を、他の一点とともに、第3回環境社会学会奨励賞「論文の部」の受賞作品に選出した。

本論文は、気候変動対策をめぐる経団連の「自主行動計画」を事例に、業界団体と個々の企業の自主的取り組みを分析することを通して、民間セクターによる環境ガバナンスの作動様式の実態を追究している。経団連の自主行動計画は、各企業への誘因や、企業側があまりにも低い目標は出しにくいような体制をつくるメリットの一方で、フリーライダー化する脱落企業を出さないために不利な企業にあわせる「保守化フィルター」や「政府の影」を利用するある種の従属性などのデメリットを持つことを示したものである。

本論文は、環境社会学において相対的に蓄積が乏しい気候変動問題をテーマとして取り上げ、ジャーナリスティックな記述におぼれるのではなく、論理的な社会科学的な分析を行っている。特に質的・量的データを組み合わせ、日本独自の環境ガバナンスの作動様式を段階的な分析の手続きによって析出し、環境ガバナンスの長所と限界を論理的に、説得的に示している点も完成度が高い論文として評価できる。

第3回(2020年)環境社会学会奨励賞選考委員会委員長寺田良一

受賞のことば

この論文は、世界最大規模ともいわれる日本の産業界による「自主的」な温室効果ガス排出行動が成り立つのはなぜなのかを、歴史制度論的・関係論的な視点から分析したものです。広範化・個別化する環境問題に対処するための重要な手段の一つとしてプライベート・ガバナンスへの注目は世界的に高まりつつあります。この論文は、そのガバナンスが成立する条件、そしてそのアンビバレントな含意を、事例に即して明らかにしようと書いたものでした。企業集団はフィールドではありますが、地理的にまとまったものではなく、密着取材もできません。そのため、断片的なインタビューからの知見と理論をどのように接合しながら「フィールドのロジック」を浮かび上がらせるのか、苦労しました。日本の環境社会学の手法を引き継ぎつつも、やや異色の対象・理論・分析法を用いている本論文を研究奨励賞に選んでくださったことに、環境社会学の懐の深さをとても感じています。どうもありがとうございました。

佐藤圭一(ヘルシンキ大学=受賞当時、一橋大学=現在)