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第4回環境社会学会奨励賞が以下の通り授与されました。第5回環境社会学会奨励賞にも積極的なご推薦をお願い申し上げます。以下は受賞理由と受賞者の言葉です。

「著書の部」受賞作品

福永真弓 著『サケをつくる人びと――水産増殖と資源再生』東京大学出版会、 2019年刊行

受賞理由

本書は、宮古湾のサケ産業の歴史と全国的なサケ政策・サケ増殖技術の歴史とを往復し、「間」と「増殖」という補助線を用い、制度や技術、社会などの諸条件の中でサケと人との関係の変化の過程を歴史的かつ環境倫理、環境社会学的に論じた労作である。中核となる概念である「間(あわい)」が曖昧な点もあるものの、膨大なデータ(主に歴史データと聞き取りデータ)を駆使し、アクターネットワ ーク理論による歴史記述は、サケ研究の人文社会科学的研究がない中で貴重であり、水産学に対する問題提起も含んだ挑戦的な内容となっている。また、ドメスティケーション(家畜化/家魚化)をグローバル、ローカルな力学から記述的に分析し、人新世の時代における自然の利用や自然再生を問い、 さらに技術者の身体性を論じた点は、環境社会学の領域を広げる研究として高く評価され、奨励賞に値すると判断される。

受賞のことば

この度、奨励賞をいただいたことはたいへん思いがけないことで、とてもうれしく思うと同時に改めて身の引き締まる思いです。ながくフィールドで共に過ごしてくださった宮古のみなさんに、そして取材に応じてくださった関係者のみなさんに、まずはお礼を申し上げます。また、この本はサケという生きものの魅力に導かれた本でもありました。ずっと人間と伴走し続けてくれているサケにも、敬意と感謝を捧げたいと思います。

改めて振り返れば、歴史を書く、文書を分析するという新しい試みを自分に課し、七転八倒しながら原稿を著したこともあり、自分の研究の幅を少し広げられたように思っています。先生方からいただいたご指摘の通り、「あわい」の概念があいまいなのは、理論的な部分について悩みながら大きく削った部分があったからだと自覚しております。現在は、魚と人間の関係性に関する研究と、開発後の跡地再生とテラフォーミングに関する研究を進めつつ、「あわい」について理論的な展開を試みています。人間という尺度も、歴史的に培われてきた自然に関する共通した社会的想像も大きく揺らいでいる現在、倫理的に思考・実践することの豊かさや創造性について、現場からの多声的な記述を通じて、研究を進めていきたいと考えております。

福永真弓(東京大学)

「著書の部」受賞作品

藤田研二郎 著『環境ガバナンスとNGOの社会学——生物多様性政策におけるパートナーシップの展開』ナカニシヤ出版、2019年3月刊行

受賞理由

社会運動論やNPO論などの知見を十分に踏まえつつ、主に環境社会学の領域で展開されてきた環境運動や市民セクターの協働や市民参加に関する研究を批判的に捉え、「環境統治性」「戦略的連携論」などを援用しながら、丹念な事例分析と事例間比較によって、セクター内/セクター間の連携・協働の条件を提示し、従来の曖昧な分析枠組みを再検討した理論的貢献は大きい。課題設定、論理構成、データの扱い方、知見の導出まで、中範囲の理論構築に至る過程の完成度が非常に高く、概念操作・仮説提示とその検証という分析的・説明的なスタイルが貫徹されている。

具体的には、「他者変革性の発揮」や「下請け化」を導出して、協働のありかたを手堅く描出している点や、生物多様性政策において日本の「丸投げ的実施体制」の「循環構造」を析出し、政策的効果を検討している点が評価できる。一方で、批判の対象とした研究が比較的古く、当時の実態から得られた理論的知見を、現在の進行した実態から論評している点や、事例の当事者からすると問題設定のアクチュアリティが少し欠けている感もある。だが、社会学の範疇にとどまらない、広く社会科学の環境研究やパートナーシップ研究に資する射程の広さを持つ本書は、博士論文を単著として刊行する一つのモデルとしても高く評価でき、奨励賞に値すると結論づけた。

受賞のことば

このたびは、素晴らしい賞をいただき、誠にありがとうございます。推薦委員、並びに選考委員の先生方に、厚く御礼申し上げます。また本書を執筆するにあたって、調査にご協力いただいた関係者の方々、コメントをいただいた先生方にも、この場を借りて感謝申し上げます。

本書は、生物多様性分野のNGOによる政策提言活動や行政とのパートナーシップ、それらを含む環境政策決定・実施過程を扱ったものです。どちらかというとメゾ、マクロな視点に立っていますので、執筆時はどのように環境社会学の伝統と接続させたらよいか、四苦八苦した記憶がありますが、このように環境社会学の業績として評価いただき、とても嬉しく思います。まだまだ粗削りですが、若手らしい挑戦的な問題提起も志しました。ぜひご批判賜れれば幸いです。今回の受賞をきっかけにいっそう精進していく所存ですので、今後ともご指導いただければと思います。

藤田研二郎(農林中金総合研究所)

「論文の部」受賞作品

吉村真衣「生業の遺産化と「振興」をめぐる力学—三重県鳥羽市における海女漁の事例から」『環境社会学研究』25号、2019年

受賞理由

本論文は、文化遺産や地域資源という価値を付与され、「振興」が目指される三重県鳥羽市の海女漁がいかに地域社会との社会経済文化的なつながりを再構築しうるか、「遺産化」の外延が急速に拡大され、生業や民俗技術までもがその対象となったことの両義性について論じられている。歴史的遺産に関する文化社会学と歴史的環境に関する環境社会学などの論点を整理し、地域社会や産業に関する分析は地域社会学の構造分析を意識した形で、海女漁の衰退と遺産(地域資源)として表象化・制度化されてきた過程を丁寧に跡付けながら、今後考えるべき論点を提示している。一方で、「レジティマシー」や「ガバナンスのしくみ」など、頻出するキーワードの定義と使い方がやや甘く、また、海女側からのよりヴィヴィッドな批判的視点が弱い。しかしながら、レジティマシーの複数性やその矛盾、従事者の社会的分化によって生じるガバナンスのしくみが変容しつつある状況を事例によって丁寧に描出していることなど、記述内容には首肯できる点も多く、リサーチクエッションの立て方を変えるとさらにインパクトがある論文になると考えられる。今後の研究の発展可能性の期待も込めて奨励賞とした。

受賞のことば

このたびは拙論を環境社会学会奨励賞に選んでいただき、大変光栄に存じます。歴史的環境の保全についての調査時、住民の「注目されるのは家の外観だけで、中に入ってしまえば他人のまなざしは関係ない」という言葉が心に残っていました。その後、海女が文化遺産や観光資源として注目される様子に、「海女さんは生業や身体がまなざしの対象になるから、家に入ってもそれから逃れられないのだろうか」と感じたことが本論文のスタートになりました。本論文では研究を始めるにあたっての論点整理を主な目的にしましたが、海女漁という生業をどうとらえるか、試行錯誤が続きました。文化遺産という枠組みにおける生業の特徴や、伝統的生業である海女漁の現在的問題を多少は明らかにできたかと考えていますが、粗い部分も目立ち、課題が山積しています。本賞を励みに今後の理論的寄与を目指してまいりますので、ご指導のほどよろしくお願いいたします。

吉村真衣(三重大学)