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第7回環境社会学会奨励賞が以下の通り図書1点に授与されました。第8回環境社会学会奨励賞にも積極的なご推薦をお願い申し上げます。以下は受賞理由と受賞者の言葉です。

著書の部:寺内大左, 2023『開発の森を生きる―インドネシア・カリマンタン 焼畑民の民族誌』新泉社.

受賞理由

インドネシア・カリマンタンのある村における自然資源利用とそれにかかわる社会関係、そしてアブラヤシ農園開発と石炭開発という二つの開発に対する住民たちの多様な対応、さらにはそこにおけるコモンズ(共同の土地利用のしくみ)のあり方の変化あるいは対応、そして、労働形態や贈与・交換のあり方の変化あるいは対応について、包括的に描ききった第一級の民族誌である。すべての側面について、詳細なフィールドワークとデータ収集、とくに十分な聞き取り・観察および世帯調査から、量的データを含む大量のデータを収集し、一方的でない、慎重かつ多角的な分析が加えられていて、分析の信頼性もきわめて高い。自然資源利用も、開発への対応も、労働形態の変化も、贈与・交換のあり方の変化も、すべて住民たちの目線から、つまりは住民たちの対応戦略として分析するという姿勢で一貫しており、しかもその対応戦略を単純化して見ておらず、十分なデータに基づいて慎重に議論されていることも、この著作の価値を高めている。

一方、この著作では住民目線の「対応」を軸に見ているが、マクロに見ると開発に大きく巻き込まれているとも見えることをどう考えるのか、また、政策的なインプリケーションが少し弱いのではないか、理論的貢献についてももっと深められたのではないか、さらには、民族誌として見るともう少し「厚い記述」を増やして人びとの顔がみえる工夫があってもよかったのではないか、など今後の研究でさらに発展させてほしい部分もある。しかし本著が、環境社会学的な視点に基づくすぐれた著作であることは間違いなく、環境社会学会奨励賞にふさわしい作品であることが認められる。

受賞のことば

この度は本書が環境社会学会奨励賞(著書の部)を受賞できることをとても光栄に思います。これまでご指導くださった先生方、選考してくださった委員の皆さま、私を受け入れてくださったカリマンタンの方々に御礼申し上げます。

本書はカリマンタンの焼畑民の生き様を描いた民族誌です。企業による大規模なアブラヤシ農園開発と石炭開発が拡大する中で、森の民である焼畑民は何を考え、どのように生きているのかを明らかにしました。一般的に、これらの開発をめぐっては熱帯林の減少や先住民の人権侵害といった問題が議論されているわけですが、本書はこのような外部者の視点から開発を議論するのではなく、焼畑民の視点から開発の意義と問題を捉え直すことを試みました。その意味で本書は生活環境主義の立場から書かれているということになります。

しかし、実は私は本書を環境社会学の本といっていいのか自信がありませんでした。私の中では現場で得た問題意識や関心に合わせて学問領域やディシプリンを選択し、組み合わせる学際的な地域研究を行っているつもりでした。ですので、本書では環境社会学のみならず、農学、農村開発学、経済人類学のディシプリンを採用して焼畑民の生き様を描いています。また質的データのみならず、量的データを収集して現場の実態を表現することも重視しました。このようなことから環境社会学の本としてはやや異質に感じられるところもあるかもしれません。ただ私としてはこういった異質性こそが新しい学問の展開の源泉になるのだと思っています。これからも私なりの環境社会学研究を展開し、皆様からご批判を頂戴しながら、この学問分野に刺激を与えることができればと思っています。

寺内大左(筑波大学)