Skip to main content
研究例会

2002年度 環境社会学関東地区第5回研究例会のお知らせ

By 2003年3月10日12月 24th, 2021No Comments

環境社会学・修士論文発表会
2003年3月29日[土]
10:00-18:00
法政大学市ヶ谷キャンパス
大学院棟(92年館)4階・401教室(http://www.hosei.ac.jp/gs/access/index.html)
主催=環境社会学会
企画担当・司会=鬼頭秀一[東京農工大学]+堀川三郎[法政大学]
<会の趣旨>
 2002年度第5回研究例会は,関東周辺地区の環境社会学関連の修士論文の発表会です。狭義の環境社会学のみならず,広義の環境社会学会関連の修士論文の成果を発表していただき,じっくり議論ができるよう,プログラムを作成しました。昨年は刺激的なコメントが飛び交い,発表者,聴衆の双方にとって新たな発見や解釈がもたらされた充実した集まりになりました。昨年同様,今回も他大学大学院で同分野を研究している院生の学的出会いの場,さらに博士課程進学後の研究テーマを展望する上でも貴重な意見交換の場にできればと思っています。また,修士1年次の皆さんにとっても自分の修論執筆の参考になるだろうと思います。会の終了後,懇親会も予定していますので,夕食をとりながら「延長戦」も可能です。奮ってご参加ください。
<プログラム>
10:00-10:15 会長挨拶(舩橋)+事務局から(堀川)
■ 第1部 自然保護を巡る住民・NGO・政策(座長=鬼頭)
10:15-11:00
▲報告 (1) 井上 元氏(東京大学) 戦後自然保護運動において中央三団体の果たした役割と課題
●内容要旨:
中央自然保護三団体と呼ばれる(財)日本野鳥の会・日本自然保護協会・世界自然保護基金ジャパン(WWWFJ)は,国内を代表する大手自然保護NGOとして戦後自然保護史上重要な役割を果たして来た。本研究では,・三団体の組織構造変遷 ・三団体の運動に見る戦後自然保護運動史の展開 ・沖縄県北部やんばるの森 愛知県瀬戸市海上の森での事例研究における三団体の位置付け,の3方法から戦後自然保護運動において三団体が果たして来た役割と今日の課題を明らかにした。
分析の結果,財団法人としての組織担保がなされた数少ない自然保護団体として,理事会・或いは事務局の個人が自然保護関連法の整備へ運動面から貢献してきた事実は評価できる一方,今日では,グローバルな戦略に基づく運動により地域生活との齟齬が課題となっている現状が明らかになった。
●キーワード:
中央自然保護三団体,NGO,事務局,戦後自然保護運動史
11:00-11:45
▲報告 (2) 大地俊介氏(東京大学) 沖縄県西表島における自然保護をめぐる対立構造の内部化について:社会集団の際に着目して
●内容要旨:
沖縄県西表島では近年地域住民が主体となったエコツーリズムが盛んになり,それがイリオモテヤマネコをめぐる開発推進と自然保護との対立解消への糸口として期待されているが,現状では対立は地域社会の内部に転移し,むしろ複雑化する様相を呈している。本研究では,長期滞在によるフィールドワークから得られた1次資料を,混住化社会論の視座を援用しつつ分析し,地域住民を社会集団に分けてこの問題を説明した。その結果,地域住民は中世以前からの先住者,大きく戦後の開拓移民,沖縄復帰後の都市部からの移住者の3つの社会集団に大別された。そして各社会集団の西表島における生活意識や習慣には差異があり,それが西表島のエコツーリズムが地域住民の理解を得ることを難しくしていることが明らかとなった。また開拓移民との対比から,自然との共生を地域の日常生活レベルで実践するとき,生産を伴う自然への働きかけが重要な要素となることが示唆された。
●キーワード:
地域住民,混住化社会論,移住者,内部転移
11:45-12:30
▲報告 (3) 茅野恒秀氏(法政大学) 自然保護問題の解決過程と制度変革:国有林と河川の管理を事例として
●内容要旨:
本研究は,わが国の自然保護運動が政策にどのような影響を与えてきたのかを検討するべく,代表的な生態系である森林,河川におけるそれぞれの運動と制度の歴史展開を分析するものである。中心的な分析視角として,ある問題をめぐって複数の主体が関与する場である「アリーナ」を提示し,2つの事例における政策過程,具体的には国有林野における保護林制度の変革と河川法の改正による河川管理の転換過程を詳細に検討する。両事例を検討し,個別問題の解決と制度変革とを両立するために,政策過程の各段階で設定された複数のアリーナにおいて,運動が行政に対して対抗力を発揮したことを指摘し,環境問題解決過程,未解決過程を解明するためのアリーナの連関を検討する。まとめとして,「課題設定」「制度変革」「個別問題解決」というアリーナの機能に着目した3水準と,各水準を架橋する「争点化」「実質化」の各段階によって構成される政策過程モデルを提出し,環境問題解決過程の社会学を展望する。
●キーワード:
自然保護,政策過程論,アリーナ,環境問題解決過程の社会学
12:30-13:45 昼休み(周辺食堂が混むので75分)
■ 第2部 「環境」にかかわる「知」のあり方(座長=堀川)
13:45-14:30
▲報告 (4) 平川全機氏(北海道大学) 合意形成における環境認識とオルタナティブ
・ストーリー:札幌市真駒内川の改修計画から
●内容要旨:
1997年の河川法改正以降,改修計画に住民の意見を取り入れる事例が増加した。しかし,河川管理者と住民には,専門知の格差がある場合も多く,対等な議論は無条件に保証されない。格差の解消には,住民が専門知を獲得する方法があるが,格差自体を無効化する実践として,専門知とは「切断」された議論のあり方が考えられる。本研究では,札幌市真駒内川の河川整備計画を策定する真駒内川対策協議会の議論を分析した。そこでは,専門用語を都合により使い分けたり,記憶の中の「昔」に依拠する語りをし,河川管理者の専門知による説明に対抗して住民の意見を正当化する実践が見られた。この語り方には,一定の意味連鎖があり,住民の環境認識に支えられている。報告者は,これを専門知による語り(「ドミナント・ストーリー」)に対して「オルタナティブ・ストーリー」と呼び,これを共有する形での専門知への対抗と合意形成の可能性と重要性を指摘する。
●キーワード:
合意形成,環境認識,オルタナティブ・ストーリー,専門知
14:30-15:15
▲報告 (5) 大泉麻耶氏(東京農工大学) 身体・生体、生業、経験、物語り:自然/生命概念の検討を通じ多声性の文化のプロセスとしての環境倫理の構築へ
●内容要旨:
奄美大島宇検村名柄集落で1930年代から1960年代シマで営まれていた各種の生業と生活について具体的で微細な記述を行うある種の民族誌を提示する。30年代以前と第二次世界大戦,日本「復帰」を経た60年代におけるシマをめぐる政治状況・社会構造の変化を捉え,所有,音楽,権力系に連関する生業の社会的なあり方と変化の分析を通じ,自然と知の構築の関係性と生の営みの複数性について示唆した。そうした調査と記述に内在する立場性の意味を内省的に問いつつ,その上で筆者本人の妊娠,出産とその後の生活という具体的特定の状況から身体的・個人的経験を物語り,産業=科学=政治権力系の標的とされる一方で不可視化される自然/生命概念の相対化と再構築を行った。果てない部分性において社会と人を問い,複数のものとしての生命と知の連関と領有を可能とする倫理の新たなあり方が明示的に示された。
●キーワード:
経験,知,複数性,言説
15:15-16:00
▲報告 (6) 黒田 曉氏(北海道大学) 「身近な自然」における環境創造とその “しかけ”のあり方:札幌市西野、都市近郊林を対象として
●内容要旨:
日常生活の背景として,身近に存在しながらも,通常は「ただそこにあるもの」として顧みられないような自然環境。札幌市西野という,大都市近郊に位置する森林で始められた,市民活動団体による体験型環境教育活動への参与観察から,本報告では,(1)彼ら/彼女らの取り組みが何を試みているのか,(2)その活動内容の変化とは何か,に着目しつつ,ある固有の地域社会において,固有の自然環境に働きかけていくことを「環境創造」と呼び,その成立および何が課題となっているのかについて明らかにした。
また,その課題克服可能性という観点から,「環境創造」の“しかけ”という社会的装置と,“しかけ”の持つまなざしとしての重要性について言及していく。そのうえで,西野の森林という「身近な自然」をめぐって生成・変容していく「場所」や「記憶」そして「主体」のなかに,“しかけ”を結実する可能性を指摘する。 
●キーワード:
環境創造の“しかけ”,場所・記憶・主体,身近な自然,自然の規範化
16:00-16:15 休憩(15分)
■ 第3部 環境にかかわる政策と制度(座長=鬼頭)
16:15-17:00
▲報告 (7) 吉田暁子氏(法政大学) 高レベル放射性廃棄物処分政策と北海道幌延問題:北海道はなぜ受苦圏となることを回避できたのか
●内容要旨(400字以内):
北海道幌延問題とは,1984年に幌延町が高レベル放射性廃棄物関連施設を誘致したことを発端に,道内で社会問題化した事例である。この問題は,道と周辺自治体が反対したことにより貯蔵工学センター計画が中断し,最終的に当計画が白紙撤回され,2000年に道が核抜き担保措置政策を行い,深地層研究所計画を受け入れることで,幌延問題が「終結」した。修士論文では,北海道はなぜ受苦圏となることを回避できたのか,という問題関心のもと,環境社会学における先行研究の検討と事例の分析を行った。そして,受苦圏の形成過程に着目し受苦圏を「強制型受苦圏」「取引型受苦圏」とに分類した。また,この論文では,日本における高レベル放射性廃棄物処分政策の展開を検討し処分政策の全体像と,国の枠組みを前提にどのように一自治体が核抜き担保措置政策を展開したのかを明らかにした。日本の処分政策は北海道幌延問題を経て,現在の政策を選択している。
●キーワード:
受益圏・受苦圏論,取引型受苦圏,高レベル放射性廃棄物,核抜き担保措置政策
17:00-17:45
▲報告 (8) 大倉季久氏(法政大学) 林業問題の解明:継承の危機と林業家の対応過程
●内容要旨:
今日,森林の荒廃が各地で進行している。いかに綿密に計画を立てても,伐採自体が赤字で,結局林野の放棄や廃業以外の選択肢を見出せずにいる林業経営の現状が背景にある。本論文は,森林の荒廃と林業の関係性を,林業家の危機認識と対応とのあいだの結びつきに焦点を据え,明らかにしようとするものである。林業家は危機を,経営的観点のみならず,家の存続・継承という観点からも捉え,独自の行動を展開している。廃業の続発は,木材資源の蓄積を強く規定する市場原理や政策形成過程が,この二側面の調整を困難にしている現状へのサイレントなプロテストであり,それらを上手く調整できた限られた実践は,期せずして環境保全にも結びついている。研究上必要なのは,環境保全に向けて,林業経営をいかに規制するかではなく,いかにして有効に機能させるのかという視点からの調査・分析であり,それは今日の林業政策や環境政策を評価する際にも有益である。
●キーワード:
林業問題,林業政策,家業経営,存続戦略論
■ 第4部 懇親会
18:45-21:00 懇親会
(文責=堀川三郎)