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環境社会学会は、2023年11月5日に東アジア環境社会学国際シンポジウム(ISESEA-9)の日本語部会として第68回大会を関東学院大学金沢八景キャンパスにて開催しました。ISESEA-9と合わせて開催報告をします。

第9回東アジア環境社会学国際シンポジウム(The 9th International Symposium on Environmental Sociology in East Asia, ISESEA-9)開催報告

大会プログラム

11月4日 Opening Ceremony、Keynote Speech、Networking Time、Regular Sessions、Welcome Gathering

5日 Regular Sessions、Special Session、Panel Discussion、Japanese Session(第68回大会)、Closing Ceremony

6日 Excursion(Daigo Fukuryu Maru Exhibition Hall /都立第五福竜丸展示館)

本大会は、2008年以降、日本(2008年・2015年)・台湾(2009年・2017年)・韓国(2011年・2019年)・中国(2013年・2021年)の順で2年に1度、持ち回りで開催されてきたものである。第9回大会を上記の日程で、関東学院大学金沢八景キャンパスで実施した。参加者は日本人58人、外国人71人の合計129人(招聘研究者を含む)で、11カ国・地域(日本、韓国、中国、台湾、オランダ、カナダ、イギリス、タイ、ベトナム、メキシコ、フィジー)からの参加があった。

持ち回り開催も3巡目に入ったことから、これまでの研究蓄積をふまえ、大会テーマを「東アジア環境社会学の独自性と多様性:ISESEA15年の成果と世界への発信」とした。また、パネル討論のテーマを「東アジアの反公害・反開発草の根運動がもたらした遺産:その意義と課題」とした。

Regular Sessionは14部会であり、環境社会学会の定例大会(第68回大会)併催による日本語部会(1部会)と、海外参加者が企画したSpecial Session(1部会)も含めた16部会において、76報告が行われた。本大会はハイブリッドで行われたが、オンラインで行われたのは76報告中の8報告であった。

各部会のテーマは、Theory and Analytical Framework(理論と分析枠組み)、Energy(エネルギー)Ⅰ・Ⅱ、Civil Society and NGO(市民社会と非営利組織)、New Perspective, New Movement(新しい視角・運動)、Business, Private Enterprise, and Environment(ビジネス・企業・環境)、Risk and Human Behavior(リスクと人間の行動)、Commons and Local Resource Management(コモンズとローカル資源管理)、Gender(ジェンダー)、Environmental Policy(環境政策)、Mobility and Network Beyond Borders(境界を越えた移動とネットワーク)、Just and Sustainable Transitions in Net-Zero Asia(Special Session、排出ゼロのアジアにおける正しくかつ持続可能な社会への移行)、Climate Change(気候変動)、Waste, Pollution, and Environmental Justice(廃棄物・汚染と環境正義)、Governance(統治)となっている。

コロナ禍によるオンライン開催(2021年、開催国は中国)を挟んで、2大会、4年ぶりの対面開催であったが、2015年の仙台大会を超える参加者を得ることができた。内容面でも、東アジアの独自性と多様性の視点から欧米由来のものが主流となっている環境問題への捉え方を見直すという、これまでにない取り組みが展開され、大きな成果を挙げたと評価することができるものとなった。

合わせて、世代交代を意識した企画としてNetworking Timeを取り入れ、Plenary Session(全員参加企画)として実施した。参加者を5名前後のグループに分かれ、研究を始めたきっかけなどを含めた自己紹介をして交流を深めるという形式のもので、その場で写真を撮り、印刷したものを会場内の掲示板に貼り出すという試みも行った。

この大会は、関係者の強い信頼関係のもとに継続してきた。今回の盛り上がりは、この企画が今後も長く続いていくことを予感させるものとなり、学術的な面と合わせて、大きな成果を挙げることができた。

日本語部会報告

山口賢一(沖縄県立看護大学)、藤田研二郎(法政大学)

自由報告会では7本の報告が行われた。第1~第4演題の司会は山口、第5~7演題の司会は藤田が担当した。

第1報告は、嵯峨創平氏の「小さな生業としての『薬草文化』を保全する意義とは何か-岐阜県揖斐川町春日地域を事例に」である。伊吹山東部の春日地域における薬草文化の歴史とその変遷、近年の課題、今後への提言を中心に論が展開された。薬草を利用した新たな商品が紹介される一方、高齢化が進む限界集落での伝統知の継承の難しさも指摘された。参与観察を通して集められた聞き取りデータは、この地域が直面する課題を把握するための貴重な資料と言える。未来に向けた創造的な再生手段がいくつか提案されたが、この点については先行研究や他の事例も検証した上で、当該事例に即した今後の提案に期待したい。

第2報告は、田中佑典氏の「山村居住者の離村に関する決意とその背景にある場所意識の変遷─奈良県旧大塔村に居住する高齢女性の語りから」である。奈良県の大塔村(現五條市)でのライフストーリー・インタビュー結果を参照し、地域社会の「存続」を是とするパラダイムに疑義を呈している。未練なく離村した元村民(A氏)の「すがすがしさ」に注視し、「固定化されがちな村人像」を多面的に捉えるという姿勢は、過疎化という現象の複合的な要因を検証する上で有用である。個人の経験の聞き取りは貴重なデータであるが、A氏の経験が特殊なものであるのか否かが疑問として残った。他の離村ケースとの比較や、離村の背景となる社会構造の検証なども必要と考える。

第3報告は、佐野洋輔氏の「ワシントン条約に基づく天然沈香の「順応的管理」の現状と課題―インドネシア共和国カリマンタン北東部を事例として」である。ワシントン条約に基づく天然沈香の「順応的管理」について、インドネシアでの現地調査の結果も踏まえて丁寧に検証している。順応的管理とは、現地の科学当局のモニタリングにより採取割当量を管理するシステムであるが、実際には非科学的で不正確なモニタリングが横行していると報告された。結果として、このシステムが旧来の問題を覆い隠し、非持続的な採取が続けられている実態が明らかにされた。様々なアクター、例えば先住民や外来採集者、科学当局者の意思決定の動機、そして権力の関係についても考察の余地がありそうである。

第4報告は、岡田美穂氏の「自然保護問題における、企業とステークホルダーの関係の変容」である。奥只見ダムの発電施設増設に際して、近隣にイヌワシが営巣していたことから、反対運動が展開された。電気事業者側の環境担当者の活動に着目することで、事業者内部のコンフリクトや外部のステークホルダーとの関係性が検証されている。環境運動における「企業対住民」という単純な二項対立の構図を脱却する試みとして興味深い研究であるが、明確に社会学研究とするための工夫が必要と感じた。例えば、役割(role)といった社会学の基礎的な概念を応用して、環境担当者の立場や行動を役割葛藤(role conflict)として考察することもできそうである。

第5報告は、加藤茉里氏らによる「環境配慮型製品・サービスの開発、普及に向けた日本人の特徴に着目したアプローチ方法の検討」である。環境問題への理解度は高いにも関わらず、実際に環境配慮行動を行う割合が低いという日本人の特徴に対して、消費者が利用しただけで環境配慮行動につながるような商品・サービスの設計が必要である。こうした商品・サービスの設計手法について、「理解フェーズ」「思考フェーズ」からなるアプローチが開発され、手法の体験を通じて、その有効性、改良の方向性が検討された。フロアからは、設計する商品・サービスによる違い(デザインなどの差をつけにくい商品について同様の手法が可能か)など、今後深めていくべき論点が提起された。

第6報告は、康傑鋒氏らによる「Twitterにおける生物多様性の呟き――日本人は何を生物多様性の脅威として話題にしているのか?」である。生物多様性の脅威に関する人々の理解について、Twitterのツイートデータを対象にテキストマイニング、ネットワーク分析を行った結果が報告された。分析の結果、とくに「里山」についてポジティブな感情とともに言及されること、また「農業」などの話題が広がりをもっていることなどが明らかになった。フロアからは、他のメディアと比較したときのTwitterの話題の特徴や、データの収集時期による影響(外来種の話題の多さなど)について質問があった。今回の分析結果をどう説明するかについて、さらに検討を深めていく余地があるだろう。

第7報告は、中山敬太氏の「都市政策における新たなリスクコミュニケーションの「場」のデザインがまちづくりにもたらす有効可能性に関する検討――東京三鷹市における実践を踏まえて」である。東京都三鷹市で市民公開講座を実施した結果、リスクコミュニケーションについて理解が深まったという参加者もおり、今後もこうした場をつくるで、行政機関の政策が変わる可能性があることが示唆された。フロアからは、具体的にどういうリスクを念頭に置いたものか、またより踏み込んだ政策の中身について議論することの必要性が指摘された。

本報告部会は発表テーマが多岐に渡ったため総合討論は行われなかったが、各発表の後には10分程度の質疑応答時間が取られ、活発な議論が行われた。全体的に先行研究の精査、構造的視点、社会学理論・概念の応用について改善の余地があると感じられたが、様々なフィールドでのデータ収集と経験を踏まえた実践的な発表が多く、環境社会学という研究分野のすそ野の広さと可能性を実感できる報告部会であった。